No.16 フローレンス・ノールのソファーとラウンジチェアー 1950〜57

この数回、クランブルックについて書いてくると、どうしてもフローレンス・ノールについて書かねばなりません。彼女の椅子は個性的な造形でないためにデザイン史の中にあまり出てきません。しかし、近代建築のインテリアを構成するスタンダードをデザインしたことは重要です。
フローレンス・ノール(シュスト)は、クランブルック・アカデミーを卒業後、ロンドンで建築を学び、帰国後イリノイ工科大学(IIT)でミースについて建築を学ぶ。その後、グロピウスやブロイヤーの事務所で働く。が、1943年ハンス・ノールと結婚して以後65年に引退するまで、建築家として、インテリアデザイナーとして、また60年からは社長として、 いまで言う「デザインマネジメント」を実践してアメリカ近代デザインの一翼をになったノール社の発展に多大な貢献をする。
自らのデザイン活動では、ネルソン・ロックフェラーのオフィスの設計依頼を契機に、1945年にインテリアデザインのみならず家具も作り出す実験的研究所として、ノール・プラニング・ユニットを立ち上げ、精力的に活動した。
アンティークものが大半を占める40年代前半のアメリカの家具とインテリア事情のなかで、彼女は次々と革新的な内部空間(オフィスや公共の空間を中心に)を作りだし、近代建築にふさわしいインテリア(家具を含め)を確立した。代表的なものとして、コネティカット・ジェネラル・インシュアランス社(建築設計はSOM)やエーロ・サーリネンと組んでデザインしたCBS本社などがある。
フローレンス・ノールは個性的な造形の椅子をデザインしなかったが、公共空間やオフィスに欠かせないセッティやソファー、安楽椅子、テーブル(特に楕円形のテーブルのシリーズは現在でも使われている)など数多くの家具をデザインしている。この椅子とソファーもそのころのもので、 その後永きわたりオフィスのスタンダードとなった。 このような椅子も20世紀の椅子のデザインとして評価されるべきものである。
デザイン:フローレンス・ノール
(Florence Knoll 1917〜)
製  造:ノール社(Knoll International)

▼Florence Kollのスケッチ
 
フローレンス・ノールのデザインしたコネティカット・ジェネラル・ライフ・インシュアランス社の応接室、1954〜57(建築設計はスッキドア・オーイングズ&メリル)