No.18・19 ル・コルビュジェ ピェール・ジャンヌレ シャルロット・ペリアンの動く背をもつ肘掛け椅子(LC1)と シェーズ・ロング (LC4)1928

先月、ぺリアンについて書くと、どうしてもル・コルビュジェについて書かねばなりません。しかし、ル・コルビュジェは20世紀を代表する建築家であるので、すでによくご存知のことでしょう。
ル・コルビュジェは、1887年スイスに生まれ、画家としてデビューした後、建築の世界へ。 あまりに有名な20世紀を代表する建築家の一人である。
ル・コルビュジェの家具は、「標準ボックス」と称するシステム・キャビネットを除いて、全て1928年にデザインされ、1929年のサロン・ドートンヌで発表された。
LC1とLC4は、それらの中でもル・コルビュジェの「住宅は住むための機械である」という考え方の延長線上で、「座るための機械」として、椅子の一部が可動し、座る人の姿勢を変化させるという機能を最もよく具現したものである。
LC1はバスキュラントチェアーとも呼ばれるように、背もたれの角度が座る人の姿勢により変わるようになっている。
LC4は、シェーズ・ロングといわれ、座から背に至る人体を支える部分が大きなカーブのパイプで繋がれ、台座の上に自由に置くことで座る姿勢(角度)が変化する。
いずれも1920年代にスティールパイプを使い椅子の概念を変えたことで、近代デザイン史の上で重要な位置を占める。
これらの椅子のデザインに、協力者の一人としてペリアンの力が大きいと考えられるのは、彼女が1941年に日本で竹を使ってLC4と同じデザインをしていることからも判断できる。
(写真参照)
デザイン:ル・コルビュジェ
(Le Corbusier1887〜1965)
ピェール・ジャンヌレ
(Pierre Jeanneret1896〜1967)
シャルロット・ペリアン
(Charlotte Perriand 1903〜1999)
製  造:1930年からトーネット社で、1965年からカッシーナ社で復刻されている。

 

 

オブジェと化した椅子
 ル・コルビュジェが世界的な建築家である、と知ったのは中学時代。亡き父の友人中尾保 〈*から贈られていた著書「インターナショナル建築」を父の書棚からたまたま見つけたときである。
 が、その時はかすかに名前のみが記憶の片隅に残っただけで、世界的建築家としての存在を知ったのは大学受験間際のとき。美術の先生から「勉強も絵もそこそこだったら建築という道があるぞ」と言われて、そのきになったときだが、椅子をデザインしているとは全く知る由もなかった。
 ル・コルビュジェのLC1やLC4が、戦後日本の公の場に初めて登場したのは、1957年(昭和32)に国立近代美術館で開かれた「20世紀のデザイン展」〈*2〉で、それぞれが「肱賭け椅子」、「調節式寝椅子」として紹介された。残念ながらこの展覧会を見ていないが、今私の手元に展覧会のカタログがあるのは、どうしてか思い当たるふしがない。
 これらに初めて出会ったのはニューヨークのMoMAであったと記憶するが、その時以来ずっと、シェーズ・ロングとは美術館で彫刻作品を眺めるように接してきた。
 というのも、シェーズ・ロングはどこにあろうと、座ってみることに戸惑いを覚える。ショールームなどでも靴を脱がないといけないと思うし、人前では寝転がる姿勢に抵抗があった。
 LC4を舐めるように接することができたのは、今から10年以上前であっただろうか。ある企業が、「リラックスできる椅子」というテーマで椅子を開発するのを手伝ったとき。サンプルとして持ち込まれ、寝転がったり、動かしたりして座った時の姿勢や角度などを細かく調査した。しかし、どう贔屓目に見てもリラックスどころか、落ちてしまわないかと気になって寝転がるどころではなかった。     20世紀の名品とされる椅子も現在の「使用」という点に関していえば、LC1とともに大いに疑問が残る。また、LC1については、今でも私には容易に図面として描けない構造である。側面図を見ていただきたい。 座となる一本のパイプ(途中で折れ曲がった)が前後のフレームに一ヶ所溶接されているだけで椅子として成立している。 溶接技術の問題であり、現在のカッシーナ社のものはその点ですばらしいが、1928年当時も成立していたのだろうか、と心底思ってしまう。
 それにしても、これらが20世紀の椅子の名品とされるのは、20世紀を代表する建築家ル・コルヴィジェが自らの思想—椅子を「座る機械」とする—を美しくデザインし、椅子というものの概念を変えたことであろう。
 21世紀になり、シェーズ・ロングは価格の高さもあり、ル・コルビュジェが目論んだ「機械としての椅子」から今や「オブジェとしての椅子」へと変身を遂げている。

*1:中尾保については、平成15年度日本建築学会近畿支部研究報告集、笠原一人、「『日本インターナショナル建築会』における中尾保の活動について」を参照されたい。
*2:1957年(昭和32)の2月20日から3月31日の間、国立近代美術館で、ニューヨーク近代美術館がコレクションしたヨーロッパとアメリカの優れたデザインをまとめた展覧会。20世紀前半の西欧のモノが日本に初めて紹介された。う贔屓目に見てもリラックスどころか、落ちてしまわないかと気になって寝転がるどころではなかった。     20世紀の名品とされる椅子も現在の「使用」という点に関していえば、LC1とともに大いに疑問が残る。また、LC1については、今でも私には容易に図面として描けない構造である。側面図を見ていただきたい。 座となる一本のパイプ(途中で折れ曲がった)が前後のフレームに一ヶ所溶接されているだけで椅子として成立している。 溶接技術の問題であり、現在のカッシーナ社のものはその点ですばらしいが、1928年当時も成立していたのだろうか、と心底思ってしまう。それにしても、これらが20世紀の椅子の名品とされるのは、20世紀を代表する建築家ル・コルヴィジェが自らの思想—椅子を「座る機械」とする—を美しくデザインし、椅子というものの概念を変えたことであろう。
 21世紀になり、シェーズ・ロングは価格の高さもあり、ル・コルビュジェが目論んだ「機械としての椅子」から今や「オブジェとしての椅子」へと変身を遂げている。