No.21 チャールズ・イームズのアルミナム・グループ (No.681〜686) 1958

今秋、タイのバンコクでイームズのアルミナム・グループのコピーに出会い、急にイームズの二度目となりました。アルミナム・グループは私の好きな椅子の一つで、今も時々使っています。
アルミナム・グループは、テーブルも含めた椅子のシリーズ全体を指してこのように呼ばれている。「屋外用の良い椅子がない」というジラード(*1)との会話の中から、 屋外にも使える椅子として開発され、「レジャー・グループ」とも呼ばれた。 現在、ネット張りのオフィス用の椅子が多いが、プロトタイプではシートがサランで張られていて、これが実現されていればこの種の先駆けとなったであろう。
アルミのフレームは、ラウンジタイプからハイバック、ローバック、オットマンを含めると、4種類からなる。脚部は固定や回転するものからラウンジタイプのリクライニング可能なものまで。張り地もビニールレザー(ノーガハイド)からファブリックと多様な選択が可能である。これは、パーツを組み立て椅子にするという製造方法によって可能となった画期的なものである。
イームズがアルミを家具の材料として使ったのは、1948年MoMAのローコスト家具のコンペでアルミをプレスする方法を試みたときである。が、椅子のフレームとして使用したのはこれが最初である。それ以後は、1960年にタイムライフビルのためにデザインした通称タイムライフチェアーや1962年の主に空港で使われたタンデム・シーティングなど、それまでのFRPや成型合板に代わってアルミがよく使われた。
1969年に同じフレームを使い、厚めのパッドを取り付けたソフトパッド・グループがあり、実に品の良いオフィス用の回転椅子となっている。
デザイン:チャールズ・イームズ
(Charles Eames 1907〜1978)
製  造;ハーマン・ミラー社
(Herman Miller)
*1:Alexander Girard(1907〜1993)ニューヨークに生まれる。インテリアデザイナーとして活躍するが、1950年からハーマンミラー社のテキスタイルデザインを担当。
参考文献:John Neuhart,Marilyn Neuhart,Ray Eames,
Eames Design,Harry N.Abrams,Inc.

  

▲タイム ライフチェア  ソフトパッドブループ▲

▲試作を検討するイームズ夫妻

時代を象徴する造形
この秋、久しぶりにイームズのアルミナム・グループに出会うことができた。と思った瞬間、それは見事なコピーであった。
初めてラオスを旅し、ルアンプラバンからの帰路2年ぶりに立ち寄ったタイのバンコク。経済が好調なのだろう、以前にも増して街には活気があふれているように見えた。
街を歩くうちに、突然、オフィス家具のショールームの前で足がぴたりと止まった。アルミナム・グループが目にとびこんだからで、それが一瞬にしてコピーとわかるのは、イームズの数ある椅子の中でも、私の最も好きな椅子だからである。
アルミナム・グループが誕生したのは、学生時代(1958)のこと。アルミのダイキャストによる大型のフレームなど当時想像することもできなかった椅子のつくり方。雑誌に華々しく登場したとき、それは驚きを超え、ただ唖然とした記憶が懐かしい。
コピーに出会った瞬間、「いいかげんにせんかい」と思う反面、最近あまりに取上げられることのなかった恋人に出会った気分で少しうれしくなった。
ネルソン事務所にいた1966年の秋。マンハッタンを歩けば、レコード屋や電気店から流れるメロディは、決まってビートルスの「Yellow Submarine」か、フランク・シナトラの「Strangers In The Night」。耳にたこができていた。
その一方で、航空会社のオフィスで一番多用されていた椅子が、パープルやイエローの冴えた色の布を纏ったアルミナム・グループ。実にカッコよく、そのシャープな容姿は当時の航空会社のインテリアによく似合っていて、用もないのに座りに入ったこともあった。アルミのダイキャストの流れるような側面のシルエット。そのフレームに吊られたキルティングのシートとその納まりのディテール。だが、なんといっても、私を魅了したのはパーツを組み立て完成品にする生産方法にあった。 どれをとっても手のとどかない女性を眺めるように憧憬の眼で接したものであった。
一ドル単位で生活費を切りつめながらのニューヨーク生活ではあったが、なんとか一本、ノーガハイド(アメリカのビニールレザー)張りのバージョンを買い求め、帰国時に一緒につれて帰り、今も時々対話をするのだが、私にとって青春時代の憧れの恋人である。
だが、座部から背にいたる成形合板のフレームに布が張られた椅子は、ブルーノ・マットソンが1941年にデザインしている。イームズはこの椅子を当然知っていただろう。これをリ・デザインと人はいうかもしれないが、つくり方の思想が全く異なる。
それは、椅子のような単純なモノにもかかわらず、パーツ(部分)をアッセンブリーすることで完成品(全体)にするというつくり方である。その結果、張り地の質や色、肘の有無、脚部の構成を含めて、多くの異なるバージョンを生み、多様化にこたえることが可能となった。 まさに今でいうカスタマイズ化されていた。
アルミナム・グループはイームズの卓越した発想と造形力はいうに及ばないが、50年代末のアメリカの力、経済力と工業力を象徴する造形である。

【家具タイムズ 2004年11月号】