No.15 ドン・アルビンソンのスタッキングチェアー 1964

少し馴染みがないかもしれませんが、今月も先月に続き、クランブルックから出たデザイナー、アルビンソンを取り上げます。アルビンソンは、イームズと仕事をした後、ノール社のデザインと技術関係を担い、デザイナーの椅子を開発することに力を発揮した人です。
ドン・アルビンソンは、クランブルック・アカデミーで学び、イームズのアシスタントとして1946年から13年間、FRPの椅子の開発にもたずさわる。1959年独立して自らの事務所を設立するが、このスタッキングチェアーのデザインを持って64年から71年までノール社のデザイン部門のディレクターとなる。製造技術と造形力の両方にたけたデザイナーとして、ワーレン・プラットナーのワイヤーの椅子やポロックの回転椅子にも力を貸した。アルビンソンは、このころのことについて次のようにいう。「生産技術や材料のことを抜きに、造形だけのプレゼンテーションをするデザイナーには苦労した」と。
この椅子のフレームはアルミのダイキャスト。座と背はポリプロピレンのインジェクション成形で、色も5色ある。このような大量生産的手法により低コストで、安定性のあるスタッキングを可能にしたのは、アルビンソンならではのもの。スタッキングされた時の姿は実に美しい。 それに加え、何よりも当時のアメリカの工業技術を象徴していて、多くの椅子を垂直にスタッキングできる椅子の典型である。
しかし、時の経過は、より低価格でスタッキングできる小椅子を生み、アルビンソンの目論見とは異なり姿を消す。
デザイン:ドン・アルビンソン
(Don Albinson 1915〜)
製  造:ノール社(Knoll International)
参考までに、ポリプロピレンの成形の椅子は、イギリスのロビン・デイが1963年に、また、木製の垂直にスタッキングできる椅子も1951年にデザインしている。

▼この椅子以前に垂直にスタッキングできる木製の椅子として1952年にロビン・デイがデザインして椅子
  

時代が生んだ造形
〈*2〉 シカゴの通称ループという市の中心部から北側、シカゴ川の対岸にトウモロコシの形をした有名なマリナ・シティー  がある。その左側にとてつもなくでっかいビル。これがシカゴのマーチャンダイズ・マート。
この中には、家具や照明器具からテキスタイルなどのショウルーム、インテリア・デコレーターのオフィスなどの他さまざまな施設があり、コンベンションなども開催できる化け物のようなスケールを持つ。ネオコン(NeoCon)  というオフィス家具を中心とした展示会が毎年行われることでも有名で、大阪のマーチャンダイズ・マート建設時のモデルにもなった。
廊下を歩くと、前方がかすむほど長い。ここに来るたびに、健脚でないとデザイナーにはなれないのか、と思ってしまう。
最初に訪れたのはIITの学生時代。ゼミの見学会のときで、歴代の大統領の写真が並ぶプレジデント・ルームに入れてもらったことがある。ケネディ大統領暗殺事件がまだ覚めやらぬころであったために、このビルがケネディ家の持ちものであると聞かされ、「さすが」と驚きをかくせなかった。
当時の日本で、アメリカのインテリア・デコレーター制度がよく話題になったことがある。しかし、マーチャンダイズ・マートのような情報集積の場の存在と、さらに、インテリア・ビジネスの仕組みが異なっているという背景を抜きに、表層部分のみが語られていたことがいかにナンセンスであったことか、ここを歩く度に実感した。昨今のコーディネーター制度も同様で、バックグラウンドもないのに、制度だけができても形骸化するのは必然。何のための、誰のための制度なのだろう。本当に。
1960年ごろから、世界的視野で見れば、椅子のデザインは第二ステージに入っていったと思う。 それは、椅子本来の機能とは別に、私流に言えば〈付加的機能〉も問われる時代になった。小椅子における付加的機能の代表は、座らない時(収納時)の有様を考える、すなわち、スタッキングということが問題とされだしたのである。
スタッキングできる小椅子は50年代からあったが、木製で垂直にスタッキングするものは積む量に限界があること。また、うしろ脚が座部より外側にあり、積み重ねるとき前方にずれていくタイプの場合は、バランスが悪くなり、多くを積むことができない。これらの点を美しく見事に解決したのがアルビンソンのスタッキング椅子である。
が、何よりも私を驚かせたのは、アルミのダイキャストやインジェクション成型など、私の、いや当時日本では考えることもできなかった家具の製作手法の組み合わせ。垂直に積み上げられ、発表されて間もないこの椅子をマーチャンダイズ・マートで見た時、デービッド・ローランドの椅子  にも劣らない感動を覚えたものである。
50年代末から60年代、アメリカ家具産業がボトム産業といわれながら、その工業技術力の高さには脱帽せざるをえなかった。これからのデザイナーは、材料や生産技術に関する深い理解なくしてはやっていけないことを痛感した一瞬であった。
*1:Marina City(Bertrand Goldberg Associates
設計 1964)シカゴで有名なトウモロコシの形をしたビル  で、上層部はアパート、下層部は駐車場。
*2:最近アメリカ政治で話題になる新保守主義とは全く関係  がない。1969年から始まったオフィスを中心に公共空間  のインテリアに関する大きな展示会。
*3:昨年の9月号(No.618)参照。
う。 それは、椅子本来の機能とは別に、私流に言えば〈付加的機能〉も問われる時代になった。小椅子における付加的機能の代表は、座らない時(収納時)の有様を考える、すなわち、スタッキングということが問題とされだしたのである。
スタッキングできる小椅子は50年代からあったが、木製で垂直にスタッキングするものは積む量に限界があること。また、うしろ脚が座部より外側にあり、積み重ねるとき前方にずれていくタイプの場合は、バランスが悪くなり、多くを積むことができない。これらの点を美しく見事に解決したのがアルビンソンのスタッキング椅子である。
が、何よりも私を驚かせたのは、アルミのダイキャストやインジェクション成型など、私の、いや当時日本では考えることもできなかった家具の製作手法の組み合わせ。垂直に積み上げられ、発表されて間もないこの椅子をマーチャンダイズ・マートで見た時、デービッド・ローランドの椅子  にも劣らない感動を覚えたものである。
50年代末から60年代、アメリカ家具産業がボトム産業といわれながら、その工業技術力の高さには脱帽せざるをえなかった。これからのデザイナーは、材料や生産技術に関する深い理解なくしてはやっていけないことを痛感した一瞬であった。

 
シカゴのマーチャンダイズマート▲